「うん、ボーンさんの話だと、サイレントキッチンの親玉が、町の外れで、イザベラと一戦交えたけど、取り逃がしたらしい。それで、イザベラを捜索するためにボーンさんは、ボルマンスク方面に向かったよ。」「ふーん・・・俺達の監視はどうなったのかな?」「それどころじゃないみたいだよお。」やれやれ、とすればロキの護衛もお役御免かな・・・ハンベエは、ちょっと肩の荷が降りた思いである。その一方で、優思明し屋であるイザベラは東に去った、と聞き、『殺し屋ドルフ』の情報が西のタゴロロームから来た事と思い合わせ、妙に辻褄が合わないなと感じていた。「ハンベエ、相談があるんだけど。・・・」ロキが上目遣いにハンベエの機嫌を窺うように言った。「はて、何の相談かな?それはそうと、俺の顔色を窺うような目付きはすんなよ。」「だって、ハンベエが引き受けてくれるかどうか不安なんだもん。相談というのは、王女様の危険も去ったみたいなので、タゴロロームに戻って一儲けしようと思うんだけど。」「ふむ、でっ?」「タゴロロームの軍営で不足している物資を王女様からもらった金貨で仕入れて向こうで売り捌こうと思うんだけど、道中、盗賊が心配なんだ。ハンベエ一緒に行ってくれないかなあ?」「つまり、用心棒か。」「うん、まあ、そんなところ。」「ふーん。ところで、どんな物を運んで行くんだ?」「塩、胡椒に、鎧を綴り直すための強い糸、それ用の針、後砥石とかだね。」「そんな物が不足しているのか?」「うん、軍隊運営の指揮官って、兵隊の数や食糧、武器なんかには気を配るけど、そんな細かいところには意外と気が付かないんだよね。現場ではそういうこまごまとした不足が生じるんだけど、武器の手入れとかは個々の兵士の自前だし、食事の用意は小隊単位で、それぞれの裁量でやってる。そういう不足を吸い上げる仕組みが無いんだよね。」「・・・。」「しかも、タゴロロームを西の守りの要としながら、道中の安全は確保されていないし、ゴロデリアの偉いさん達は兵站の思想がないのかも。.「兵站・・・難しい言葉を知ってるな。いっそ、この国の宰相にでも会って、意見具申してみるか?」「あはは、オイラ、そんな暇じゃないよ。」 ロキの話を聞きながら、ロキの言い分は半分は当たっているだろうが、半分は違うのではないかと考えた。特に、ゲッソゴロロ街道の治安の悪さは、宰相の政策のせいではなく、タゴロローム駐屯軍の怠慢によるもののように思える。 あのラシャレー大浴場のような設備を作り出すラシャレーが交通の要所の安全に気を配らないはずが無い(ハンベエは風呂好きなので、ラシャレー大浴場をこしらえたラシャレーは嫌いでないらしい。)。そもそも、国の境に置かれる軍隊の目的は外敵の侵入防止と主要通路の安全の確保である。ゲッソゴロロ街道の治安が良くないという事は、詰まるところ、タゴロロームとゲッソリナの間が上手く行っていないという事に違いなく、バンケルク将軍が割拠的姿勢を取っているのではないかと疑わせるものである。 であればこそ、サイレントキッチンはバンケルク将軍の使者であるロキに神経を尖らせたのではないだろうか。ハンベエは何となくそう思った。「出発はいつ頃になりそうだ。」「今から準備したら、三日後だよお。」「いいだろう。」ハンベエはさらりと言った。「やっぱり、ハンベエは話せるよお。」喜ぶロキを横目にハンベエは別の事を考えていた。(二日あれば、あの昼間会った気になる刀を携えていた男の事も多少は分かるだろう。)いつものように、王宮ではゴロデリア王国宰相ラシャレーへの『声』の報告がなされていた。「というわけで、イザベラは取り逃がしてしまいました。ボーンにその後の捜索をさせています。」「ふむ、その方まで失敗ったか。全く、サイレント・キッチンもハンベエが現れてからは黒星続きじゃの」「まことに申し訳有りませんな。ところで、新しい情報が三つ有りますな。」「新しい情報・・・何じゃ?」