副長は、沢に大事な話があるからをあげるようにいった。

 もちろん、沢はソッコーそれに従う。

 

 副長は、かれに近藤局長のことを語ってきかせた。

 

 沢もすでにきかされている。それでも、ショックを隠しきれないようだ。途中からうつむいてしまった。かれが涙をこらえ、唇をかみしめているのを、たまらない気持ちでみつめてしまう。

 

「申し訳ございません。藍銅胜肽生髮 副長、いえ、土方局長やみなさま方ががんばっていらっしゃるというのに、心にぽっかり穴があいてしまったかのようで……

 

 沢はうつむいたまま謝罪した。その声は、涙声になっている。

 

「忠助。かっちゃん、否、局長のために泣いてくれて礼を申す。まえにも、局長の心情をくんでくれていたよな。謝罪するのはおれのほうだ。一生懸命仕えてくれたってのに、死なせちまった」

「おやめください」

をあげた。いまの制止がきつすぎたかと、あわてているようだ。

 かれは、すぐにを畳に向ける。

 

「お許しください」

 

 そして、恐縮しまくりつつかぎりなくちいさな声で謝罪した。

 

「忠助、おまえにはいつもいろいろきづかされちまう」

 

 副長がやさしく声をかけると、沢はますます恐縮してしまう。

 

「忠助、おまえもきいてくれ。主計のことは放っておいて……

「ふくちょ……、いえ局長、それはないですよ」

「話の腰をおるんじゃねぇよ」

 

 ツッコんだら怒られた。

 くすくす笑いがおこる。

 

 やった。つかみはOKだ。

 

「もどってくるまでにいろいろかんがえたんだがな……

 

 みなが注目するなか、副長はムダに焦らしてくれる。しかも、意識してか無意識なのかはわからないが、注目されているのを堪能しているかのようにゆっくり全員をみまわす。

 

 ったく。局長になったら、カッコつけしいに拍車がかかってしまったんじゃないのか。

 

 って、またにらまれた。

 

「いったん解散しようと思ってる」

「ええっ?」

 

 全員でハモッた。

 

「解散って、新撰組をですか?」

 

 いっしょにいたおれたちも、いまのは寝耳に水である。

 

 たしかに、副長は『これからさきは隊士各人にともにゆくかはなれるかを決めさせる』的なことを話をしていた。

 

 が、それをソッコー実行にうつすとは、正直、思っていなかった。

 それは、島田も同様だったらしい。めっちゃ困惑ので局長に確認している。

 

「まぁ、きいてくれ」

 

 局長は、またしてもムダに苦笑を浮かべつつ、島田だけでなく全員をみまわした。それから、かんがえってやつをかたりはじめた。

 

「ここからは、各人が自身の判断で進退をきめてくれ。解散というのは、そういう意味だ。全員が全員、苦難の道をあゆむ必要なんざねぇんだ。ゆくあてのある者、やりたいことのある者、戦なんぞやってられるかっていう者もいるであろう。あるいは、怖かったり不安だったり死にたくないって者もいるはずだ」

 

 局長は、またみなをみまわした。

 

 だれもがその局長をみつめている。そして、話をじっときいている。

の日々になる。しかも負け戦だ。おれに付き合って死ななかったとしても、ろくな

「ここから、ながいじゃねぇ。それがわかっているのに、新撰組の名をふりかざして無理矢理付き合わせるつもりはねぇ」

 

 そこで一息いれてからつづける。

 

「ならば、局長の仇はどうするっていいたいだな、ええ?」

 

 副長ののさきにいる隊士の数名が恐縮してを伏せた。

 

「かようなもの、局長がよろこぶと思うか?局長は、最期までおれたちに生き抜いてもらいたがっていた。新撰組のをもって生きつづけてほしいってな」

 

 おだやかな語り口調である。

 

「遠慮することはねぇ。新撰組は、たったいまひとまず解散する。みな、自由だ。「局中法度」やおれに縛られているわけじゃねぇ。どこにゆこうが勝手だ」

 

 そこでまた一息入れる。

 

「おおっと。なにもいますぐ進退をきめろっていってるわけじゃねぇ。が、正直なところ、あまりときもねぇ。今宵一夜、それぞれかんがえてくれ。無論、おなじことを斎藤ひきいる三番組にも告げる。忠助、おまえと久吉もだ。いいな?」

 

 忠助と名を呼ばれ、かれがはっとを上げる。

 

「以上だ。もうおそい。ゆっくりやすんでくれ」

「さぁ、部屋にもどれ」

 

 副長が一方的にしめると、蟻通と中島がみなを部屋から追いだしてしまった。

 

「おい餓鬼ども、おまえらもさっさと寝ろ」

 

 しかし、市村と田村は、俊春のまえに座り込んでまだぐずぐずと残っている。

 

 二人は、まるで俊春に庇護を求めているかのようにうかがえる。いいや。実際、求めていのであろう。

 

 二人とも、ここで放りだされると不安になっているにちがいない。

 まだ幼さの残るは、不安の色に染まっている。

 

「副長っ!」

「局長だよ、てっちゃん」

 

 思わず「副長っ!」って叫んだ市村に、田村がツッコむ。

 

「どっちでもいいよ。副長は副長なんだから」

 

 逆ギレする市村。

 

 うん。わかるぞ、市村。副長は副長だ。それ以外、かんがえられない。

 

 おれ自身、「局長」なんて呼ぶのは違和感ありありだ。

 

 そこでやっと、沢は