「俺の、言いたいことは分かるよな。…もう、お前さんは優しい田舎の道場主じゃねえんだ。伊東も良いが、俺らの声にも耳を傾けてくれ」
土方の言葉に近藤は何度も頷く。
「済まなかった、歳ッ…。山南君…ッ」
それを聞いた土方は安心したような表情になった。少しは山南も浮かばれるだろうか、と外へ繋がる障子に目を向ける。
──山南さん。俺ァ、easycorp お前の綺麗なところが嫌いだと言ったが、あれは嘘だ。こうと決めたら最後まで貫く、綺麗な信念を持つお前のことを羨ましく思っていたよ。嫌いじゃなかったぜ。
何度もしゃくり上げる声が聞こえ、土方は近藤へ目を向けた。
「泣くんじゃねえよ、勇さん。切腹を言い渡した俺らがピーピー泣いてりゃあ山南も浮かばれねえだろう」
「そんな事言って…お前も泣いているじゃねえか。歳ッ」
近藤の指摘に、土方は手の甲で目元に触れた。いつの間にか、目頭からは雫が零れている。
泣いているのか、と自覚した途端にじんわりと視界が滲んでは、次々と溢れ出した。
「勇さんの…が、うつっちまったんだよ…ッ。阿呆…!」
そこからは二人して静かに弔うように泣いた。
今夜だけは、友を失った一人の男として泣いても許されるだろう。そう信じながら。桜司郎のそんな心中など知ってか知らずか、二人ははしゃいでいる。
「あ…あの、知っていますか?どうやら まで設けられるらしいですよ」
綺麗好きの馬越は嬉しそうに顔を綻ばせた。
これもまた桜司郎の悩みの種になりそうなもので、一緒に風呂へ行こうと言われたらどうしようと頭を抱える。
「そりゃあ嬉しいな!稽古の後とか汗臭くて嫌だったんだよ。な、桜司郎」
馬越程では無いが、身なりを気にしている山野も嬉しそうに笑う。
「え、あ……あー、そうだね。すごく嬉しいよ。それよりさ、あの建物は何だろう」
桜司郎は話を逸らすように、北集会所に付属するように建っている棟を指さした。
「あれは副長や局長の執務室や、監察方の部屋がある棟との事ですよ」
「へえ……馬越っちゃん良く知ってんなぁ。案内人のようだぜ、スゲェ」
にこにこと喋る馬越を、関心したように山野が見る。褒められた馬越は照れ臭そうにはにかんだ。
そこへ他の隊士達が、前川邸から自身の荷物やら隊の道具やらを一生懸命運んでいる姿が目に入る。
「そう言えば、もう荷物は持ってきたのか?そもそも俺はそんなに無いけどよ」
山野の質問に桜司郎も馬越も首を横に振った。
「それなら俺手伝うぜ。お前たち荷物多そうだしな」
山野は腕捲りをすると、壬生に向かって二人の背を押す。馬越は言葉に甘えることにしたようだが、桜司郎は断った。
何たって、部屋の中にはマサから貰った女物の着物が置いてある。見られる訳にはいかなかった。
山野は残念そうな表情を浮かべるが、それ以上は追求して来ない。こういうカラッとした性格だから、有難いと思った。
談笑をしながら壬生への道を歩いていると、ふと馬越が足を止める。どうしたのかと桜司郎と山野が振り返ると、馬越は薄らと目に涙を溜めていた。
春のこぼれ日に照らされながら、涙を流す馬越はまるで絵に書いたように美しい。
「ま、馬越君……?どうしたの」
「俺、なんかしたか?」 そう言って馬越はわんわんと泣いた。一人で居るために、武田からは言い寄られては逃げる日々。だが、今はこの二人や松原がいる。
そして自分の趣味すらも笑わずに受け入れてくれた。
談笑しているうちに、この日々を失う日がいつか来るのかと思うと悲しくなり、今が愛しくてつい涙が出てきたという。
桜司郎はそっと馬越の頭を撫でた。綺麗な心を持つ彼が幼子のように可愛く見えたのである。
「俺は、二人を大切にするぜ。この世の中だ、いつかは別れる時が来るだろうよ。それでも、楽しかった思い出はその時の活力になるんだ」
山野はそう言うと、顔に袖を当てて泣く馬越と桜司郎のそれぞれの肩に腕を回して引き寄せた。
「俺らは
コメント