『花上、やはり悩んでました。今、そこにいますか?』 「ええ。隣に…。」 『では、代わって頂けますか?花上にも話しておきたいですし、こういう事はやはり花上の口から直接、倫也さんは聞いた方がいいと思いますので…。』 悩んでいるのに話してくれない事…と考えながら、ここは宇佐美の助言通りにスマホを倫子に差し出した。 倫也には女心というものがいまいち分からない。 身近な女性と言える姉は何でもズバズバ言う人で、気に入らないと手が出る人、実に分かりやすく、お互い遠慮のない為、倫也は手は出さないが殴られる事には慣れている。姉も加減はしている。 女性とのお付き合いは多くはなく、面倒と思う事が殆ど。相手の気持ちを考えるという事は余りなく、顔色をいつも見て行動を見て様子を見て、毎朝、元気で、笑ってると嬉しくなるのは倫子が初めての相手だった。 だから素直に宇佐美の言う通りにした。 今すぐ聞きたい気持ちを抑え込んで…。 「宇佐美さんが代わってって。」 「……はい。」 受け取った倫子が予想通りに寝室に移動しようとしたので、思わず大きな声を出す。 「倫子!頼む、ここで…ソファに座ったまま、話してくれないか?」 振り向くと、情けない顔をした倫也がいて、倫子は頷き、浮かした腰を元に戻した。 「もしもし、宇佐美さん?」 『花上、まだ話してないのね?』 「すみません。」 『心配、掛けたくない?それともまだ浮気してると思ってる?』 「両方、です。う…後者の場合、お腹の赤ちゃんに…何かあっても困るし、はっきりしてから話そうかなとか、色々考えてしまって。」 『分かるけど、倫也さんを信じてあげなさい。花上の事、ずっと心配して、家の電話の配線、一度は繋げたけど花上が外していると知ってからは黙認してるのよ?花上の事だけを心配してる。その気持ちを信じてあげて。相談…した方がいい。』 「…はい。そうします。」 倫也の方を向くと、宇佐美が言う様に本当に青い顔をして今にも泣きそうな顔をしていたので、仕事でも強面で通っている人が…と信じようと思えたのだった。 『本題ね、新藤さんが自宅の電話番号を変えたと話したの。今日の昼ご飯の時に、小会議室の近くの部屋で何人か誘ってランチにしたんだけど彼女も当然誘ってね。うちの電話番号を教えた。』 「えっ!?」 驚いて大きな声を出すと、直ぐに倫子はどうしてと訊き返していた。『今日ね、理也休みで家にいたの。ちょうどいいでしょ?新藤ですって男が出たら面白い想像しそうじゃない?うちも固定電話はナンバーは出るし、理也にはこの番号から掛かって来たら新藤ですって出なさいよってメールしておいた。今日、するとは思わないけど留守電にしておけば無言は入るしね。それでお昼に誘って、新藤監査のご自宅の番号変わったらしいわねぇって総務の子に変更した方がいいわよって。』 楽しそうに話す宇佐美に倫子は戸惑いながら返す。 「いや…変更はダメじゃないですか?」 『大丈夫。事前に総務の子、その場には三人ね、電話の話題するけど嘘だからって合わせて欲しいって話してあったから。引っ掛かるのは一人だけ。』 「はぁ………宇佐美さん、相変わらず仕事早いですね。」 感心してため息が漏れた。 『お褒めありがとう。それで、花上のご依頼通り秘書室にカメラをセットさせてもらったわ。電話が見える位置、これは食事中に日暮さんにお願いした。昼休みだし日暮さん機械に強いし、会社の事に関係してくるかもしれないし、花上のお願いだと伝えたら喜んで協力してくれたわ。そこで尻尾を捕まえた。新藤監査が帰社して、お茶をお出しして戻ると直ぐに電話に手を掛けた。掛かって来たのは沢木家。一週間は楽しかったのにその後出てくれない、それでこの前の土曜日でしょ?味を占めたのかしらね。まさか直ぐに引っ掛かるとはねぇ。理也から録音した音声、無言だけど、それと時間を送ってもらった。番号は秘書室、時間も映像とぴったり同じ。後はこれを使ってどう追い詰めるかね。』 花上の意思を尊重する、どうしたいか考えてまずは倫也さんに話しなさい、と宇佐美は通話を切った。 「あ、宇佐美さん、あり……がとう。」 通話を切られて途中になった言葉を倫子は飲み込まずに言い、倫也の方を見てスマホを返す。 「心配掛けて…ごめんなさい。宇佐美さんに聞かれて少し話して、自分で解決しようと思ってました。心配掛けたくないのと、相手とは倫也さん、これからも仕事をしていくから私の所為で仕事がし難くなったら嫌だなと思ったの。土曜日の事は誤解だって分かったけど、それ以外はまだ少しだけ疑ってました。土曜日より前にもしかして…小会議室でそういう事して、倫也さんが先に出て行って腹いせに私にって…想像してそんな事ないって何度も打ち払って……信じてあげられなくてごめんない。」 頭を下げられて、倫也は倫子を抱きしめていた。 「何があったか話してくれるよな?倫子を疑う様な気持ちにさせたのはきっと俺だ。ごめん。だけどそんな事何もない。それははっきり言えるから。誓えるから!信じて話して欲しい。心配もしなくていい。俺は倫子を守りたいんだ。」 強く言われて腕の中で、胸にスリスリと顔を撫でつけた。