第5連隊が駐屯地に戻ってから三日目の朝、モルフィネスはハンベエと会って話をつけるために、ハンベエに呼び出しをかける事にした。群狼隊のビルコカイン以下にいざという時のための準備もさせていた。その前後に、ハンベエに関する情報でモルフィネスが目を止めたものに、ハンベエがタゴロローム守備軍兵士相手に小商いをしている少年ロキと非常に親しくしている、というものがあった。ロキについては、モルフィネスも当然知っていた。バンケルクの書状を王女エレナに届けた少年である。バンケルクがロキを使者に選んだ時も、モルフィネスはバンケルクから相談を受け、何も言わず賛成していたのである。ハンベエがタゴロロームから立ち去る事を拒絶した場合、その場で群狼隊に討ち果たさせる予定であるが、万に一つ取り逃がしてしまう事も考えられる。(その場合、ロキを人質に取っておけば使えるに違いない。)そwooden boxes suppliersえたモルフィネスは、ハンベエと会見するために出かける時に、配下の群狼隊の一人にロキを攫っておくよう命じた。そんな事とは露知らぬロキは、今日もキチン亭2号館に滞在していた。食台として使用されている丸テーブルに何やら帳簿を拡げて、カリカリと書き物をしている。あまり広い部屋ではないけれど、清潔で静かな佇まいである。元々、キチン亭の手入れが行き届いているのに加え、少年ロキは口も八丁の上に身の回りの事に骨を惜しまないタイプで、整理整頓を心がけているのだ。コンコンと軽くドアがノックされ、ロキは椅子から立ち上がり、「誰?」と言いながら、部屋の出入口に向かった。「バンケルク閣下の使いの者だ。」ドアの向こうから返事がした。男の声である。「将軍の?」ロキが何だろうという顔でドアを開くと、兵士の服装をした男が一人立っていた。「閣下が話されたい事があるそうだ。すぐ来てくれ。」男は急かすように言った。だが、ロキは一歩下がると、「将軍には、ハンベエの待遇の一件でムカッ腹立ってるから、呼ばれたってホイホイは行ってやらないよお。」と答えた。「閣下のお呼びだぞ。」「閣下だから何、カッカしてるのはオイラの方だよお。行きたくなったら、オイラから行くよ、ハンベエと一緒にね。将軍にそう言っておいてよお。」さすがはロキ、少年の身ながら、将軍のお呼びだろうが、気に入らないものは気に入らないときっぱり言ってのける度胸は大したものだ。身の程知らずの大言は持って生まれた性分か。ハンベエが側にいなくても言うときゃ言うぜ。だが、ロキの取りつく島もない拒絶に、男はちっと舌打ちをすると、いきなりロキに襲い掛かって、その首筋に手刀を打ち込んだ。ロキはあっけなく気を失って床に倒れてしまった。「大人しくついてくれば、こっちも手荒な真似をしないものをよ。さて、モルフィネス様の命令どおり、本営の倉庫にでも閉じ込めておくか。」男は足下に倒れているロキを、酷薄そうな顔つきで見下ろしながら言った。ロキ誘拐を命じられた群狼隊の一人だった。一方、タゴロローム駐屯地にいるハンベエには、モルフィネスからの呼び出しがかかっていた。群狼隊の一人が迎えに来ていて、モルフィネスがハンベエに内密に話したい事があり、駐屯地の外れの貯水池で待っているという。その報せを第5連隊兵士が伝えて来た時、ハンベエの傍らにはドルバスがいて、「ハンベエ、いや、連隊長代理、まさか行くつもりじゃあるまいな。罠があるに決まっているぞい。」と心配して言った。ハンベエはいつもの少し眠たげな、とぼけた表情をしていたが、ドルバスを振り返るとニヤッと笑った。「山を降りて世間に出てきて以来、命を狙われるのは俺の得意技みたいなもんでね、慣れたものだ。 ハンベエは笑いながらそう言って、更に続けた。「心配してくれて嬉しいが、何しろ人を殺すのは随分慣れて来たが、殺されるのは至って苦手な質なんで、まあ大丈夫さ。
第5連隊が駐屯地に戻ってから三日目の朝
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